PROLOGUE

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新暦百五年、旧米国領土『アラスカ』 極寒の地であるここに、幾つもの黒く巨大な影が舞い降りた。 それらはクジラのような流線的なフォルムを持ち、艦尾には大小合わせて六基のブースターを持ち合わせている。 両舷からやや出っ張ったカタパルトデッキに挟まれるように建つ艦橋では、世話しなく言葉が行き交っていた。 「シグナル点灯、メインエンジン停止……サブエンジン点火!」 操舵士の報告を聞き、艦橋の中心よりやや後ろにあるシートに座った男が指示を下す。 「各ブロックに通達! 祝いの日だ、ダラダラするなよ!」 初老の艦長カラレス・マルティネスの声を、副長マーカス・マルティネスが復唱する。 「復唱! 祝いの日、手を休めるな!」 カラレスは、手元のディスプレイに表示されるウィンドウから目を離さずに言った。 「堅いぞ。息子よ」 しかし、返ってきた返事は素っ気ない。 「お言葉ですが艦長。任務中は親子ではありません」 それを聞いて、カラレスはやれやれと首を左右に振った。 何時からこんな堅い軍人になってしまったのか……。 「そうか……。他の艦に通達! アースガルズ入港の後、随時入港せよ!」 その思いを押し込むように、カラレスは通信士を怒鳴り付けた。 そして、目の前に映る白銀の世界に、小さなため息をつくのであった。
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