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「冗談だろう?君は確かに此処に居るじゃないか。本が好きなら、何かお薦めを教えてくれよ」
「本は読まないのかい」
どうやら詩集らしい本から視線を逸らさずに、興味なさ気に質問されて、僕は少し気まずくなって俯いた。
「…あまり、詳しくは無いんだ」
「それならヘッセを持ってお行きよ。デミアンがお薦めだ。読んだら感想を聴かせてくれよ」
「君は?まだ此処に居るの?」
「僕は何時でも此処に居るさ」
本棚の中から、ヘッセの棚を探して、言われた通りにデミアンを引き出して、もう一度見知らぬ彼の傍に駆け寄った。
「感想は、この場所で?」
「そう、放課後この部屋で」
別れぎわに、彼は僕の頬に口付けた。
僕はまた熱くなり、慌てて図書室から駆け出した。
寮に戻って、夕食の時間喧騒の中僕は上の空で不味いビーンズスープを口に運んでいた。
「ルチウス、図書室には行ったかい」
「え?」
「しらばっくれるのかい。君が図書室に行って本を借りて来るって話さ。有名だぜ」
向かいの椅子に座ってパンを頬張りながら質問してくるのは、同室の何と言う名前だったろうか。
真面目そうな眼鏡の奥に、好奇心旺盛な瞳を宿している。
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