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「ルエス曾長」
ルエスは袖で口を隠し溜息をつく。中尉に酷く気に入られているらしくここ最近よく御呼びがかかるのだ。
光栄な事だとルエスは穏やかに笑う。現状に見切りをつけているルエスには中尉の振りかざす罰も褒美も無駄な行為だと嘲笑してやりたいものの無能な癖に自尊心ばかりがやたら高い中尉に面倒事を押し付けられては堪らないからだ。
キングはこのルエスの行動には共感出来ないらしく、一寸不機嫌そうに煙草をふかしていた。ルエスにとってそれもまた面倒事であったのだが天秤にかけて、中尉の面倒事の方が厄介だという結論にたどり着いた訳である。
「ルエス曾長は、昇進を望むか」
「…興味ありません」
「何故」
「前線にて中尉殿をお守りする事が曾長である自分の勤めでありそれを誇りに思っているからであります」
「…よい心掛けだ」
何が昇進、だ。昇進するを良しとしないのは貴様ではないか。ルエスは出世欲、自尊心に乏しい男だったが優越感を感じたいが為の質問に些か腹を立てていた。階級というものは非常に面倒なものだ。理不尽な現状に感じる中尉のストレスのはけ口は兵卒の者達であった筈なのだが。
愚かなものだ。こうしてストレスを部下にぶつければ部下のストレスが溜まりそのストレスはやがて上司へと向けられる。そしてまた起こる悪循環。毅然とした態度を保てない者が失脚していくのだ。いずれ クーデターを企てる者も現れるのではないか?なんとも小規模なクーデターだ。ルエスは思わず失笑を漏らす。中尉は眉を潜めたが再び見せたルエスの穏やかな笑顔に 機嫌を良くし ルエスへ褒美だと告げ、酒を渡す。人間というモノは何処まで愚かになれるのか。ルエスはふと考えて中尉を見遣る。未だに 悍気の走るようなニヤケ顔をしたままの髭面を見て 溜息をついた。
部屋に戻ったルエスは酷く疲れた顔をしていた。キングはルエスの両手にある酒に見つけ 笑みを漏らす。これはルエスの勝手な解釈なのだが、それは嘲笑にしか見えず一寸殴ろうかという考えが過ぎったが 今日は止めておく事にした。
「あの兵卒を呼んでやろうか」
「ああ」
「エリウス、中尉殿は賢明だな」
キングの皮肉にルエスは 渇いた笑いだけを返し、部屋を出る。兵卒宿舎は何処だったか。そういえばキングも兵卒だった筈なのだがいつの間にかルエスの部屋に居着いている。
自由な男だ。
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