平和主義を称える利己主義者

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  待ち伏せを命令され小隊が動く。周りは殺伐とした砂漠が続いていた。夜中の砂漠は冷える。兵士の士気は最低だった。 裕福な家庭で生まれたルエスと言う男は自ら軍に志願した男だった。貧しさから徴兵された者ばかりいるその軍で明らかに浮いている存在でありいつも一人でいる。 本部からきた中尉が無線が通じなくなったと喚いていた。どうやら敵の電波障害を受けたようだとそんな事を喚く。陸の孤島。外から迎えがなければ此処から脱出するのは難しいだろう。国境近辺は敵が常に待ち伏せをしている。 ヘリは既に敵味方双方共破壊されていた。 それが 現状。まさに地獄絵図という言葉が似合う場所。 「エリウス、次の見張りは君だ」 「…私の名はルエスだ」 「何でもいい。見張りの者が居眠りをしていた。東方向で既に4人死んだ」 「それで?」 「中尉の指示だよ。君ならばうまくやると思っているのだろう。西へ迎え」 ルエスに興味を持つただ一人の兵士キングは失笑混じりに言った。ルエスは溜息をつく。軍服は降りてきた霜により少しだけ凍っている。もう日にちの感覚どころか季節の感覚すらなくなってしまった。寒さから予想するに今は冬であるのだろう。身震いしながら立ち上がる。惨劇だ。まるで液晶の向こう側のようだ。 「キング」 「死ぬなよ?」 「さぁね。誰かが死んでいる状況で見張りを立てる意味を理解しているつもりだよ」 「ああ、そこまで考えていなかった」 「嘘つけ」 ルエスは聡明だった。この状態は無意味。 恐らく戦争は終わっているのだろう。本部のみと繋がらない無線。ぱたりと止んだ兵士の調達。そしてそれに気付いたとしてもどうにもならない事を知っていた。命を張って唱えようと誰が耳を貸すものかと。 度重なる戦闘行為。疲弊したまま臨む殺し合いは 人の精神を破壊する。殆どの者が快楽殺人者と化していた。 「13番隊曹長ルエス、応答願いたい」 『13番隊一兵卒ユアン。曹長殿、中尉が』 「やられたのか?」 『いえ、右肩に弾丸が掠りました。軍を撤収しろと』 「…放っておく事は出来ないのか」 『命令違反は軍法会議にかけると』 銃を立てる。今日の仕事は終わりだ。 クスリの混じる煙草をキングから渡されたがルエスはそれを投げ捨てた。 今日はカレーを食べる日。金曜の夜。 ルエスは身体に日にちを刻む。  
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