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兵士の休息はふたつに別れる。地下の暗い一室で酒とクスリに溺れるか、または無事祖国へ帰れた時に与えられる富を賭けた賭博行為か。ルエスはそのどちらにも加わっていなかったのだが。
緊張の解れた瞬間。ルエスはこの空間が嫌いだった。もとより一人を好む質でありクスリでバカ騒ぎする気もなく 見えない先を賭けた遊びをする気も起こらなかった。
此処は墓場だ。
国に見捨てられた墓場。
私達がボロボロになり朽ちて土に還るだけの場所。
それを理解している。
本拠地は砂漠から離れたオアシスの一介にある。その寒さは尋常ではなかったのだがこの基地の熱気は凄かった。それもルエスの気を滅入らせる一つの理由。
それとこの男、キングの存在。
「エリウス」
「…ルエスだ」
「地下へ行かないのか?」
「下らない。死地へいるというのに現実から逃げるなど弱いものがすることだろう」
「…なあ」
「なんだ」
キングはやけに神妙な顔立ちでルエスに迫った。ルエスは溜息をつきキングも気付いているのだろうと小さく思う。
一言忠告しておいてやるか。キングには少しばかり借りがある。
「…お前、気付いているんだろ?」
「ああ」
「それも俺よりずっと前に」
「そうだな。だが誰にも言わないべきだ」
「…何故だ?」
「お前が地下の何も知らない奴らだとする。証拠も何もない現状で将校の位も持たない者がそれを言った所で信用するか?」
キングは考え込み、ゆっくり顔をあげて笑った。ああ、そうだな。やはりエリウスは頭がいい。そう言ってルエスのベッドへ倒れ込んだ。
「私を試したいのだろう」
ルエスは言う。キングがそこまで浅はかな男だとは思えなかったのだ。この男は他のキチガイとは少し違う気がする。キチガイには変わりないのだが。
「…なぜ?」
「お前は私の言葉を待っていただろう」
「本当に頭がいいな。どうして前線を選んだんだ?あのバカ中尉なんぞよりよっぽど優秀だ」
「…“購罪”だ」
「購わなければならない事が?」
そこまで話しルエスは鼻で笑った。キングの事ではない。自分自身を。ゆっくりと立ち上がり今朝掠めた弾痕を水で洗う。ルエスの白い肌は焼ける事を知らなかった。それが戦場の天使と呼ばれる由縁。
ルエスは天使などではない。
天使などではないのだ。
何故だか無性に叫びたくなった。
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