平和主義を称える利己主義者

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  ここから行って西側に敵の蛸壷を発見したと連絡があった。ルエスは軍服に袖を通す。ベッドを陣取り爆睡するキングを叩き起こして。 ユアンはルエスと同じように裕福な家庭の持ち主だった。祖国には家族がある。廊下で擦れ違った時敬礼をする彼をルエスは深く哀れんだ。もう二度と家族には会えないだろう。せめて早く死なせてやろうじゃないか。ルエスは扉の前で十字を切った。クリスチャンと言う訳ではないのだが。 「罠だろうな」 「ああ、解っているさ」 「どうして向かう?」 「私は命令に従う」 キングはルエスにからかうように言う。特にこれからの進軍に興味が無いようだった。だがルエスを試すような発言をやめる事はない。 「蛸壷に入る事はしないだろう」 「一兵卒の仕事だ。貴様が入るか?」 「ジョーダン。曹長殿は俺の使い道を理解している筈だ」 「さあな」 キングは押し殺すように笑う。ああ、出来る事ならば一兵卒などではなくあの無能な中尉こそ罠だらけの蛸壷に突き落としてやりたいものだが。ルエスは鼻で笑った。 太陽は東寄り。未だ午前中のようだ。今ならば敵が潜む事はないだろう。ルエスはユアンを呼ぶ。死地の更なる死地へ 誘う。 果たすべき業がまた、増えてしまった。 蛸壷へ入っていくユアンは誇らし気に向かう。 「曹長殿!地図があります」 「なんだ、罠はそんなものか」 「…え?」 「いいか?地図は放っておいた方がいい」 「ですが曹長…」 「命令はしない。だが私は放っておく事を進める」 ユアンは釈然としない顔でゆっくりと出て来る。運がいいのか悪いのか。ルエスは皮肉に笑いユアンの腕を引き銃を奪う。 「一つ教えてやろう。私の忠告を素直に受け取った褒美だ」 「曹長殿…?」 ユアンは呆けた顔でルエスを見つめるがルエスは鼻で笑う。鼻で笑うのはルエスの悪癖の一つだ。 奪い取った銃を蛸壷内の地図が入っている鞄に向かい投げ込んだ。 途端に響く爆発音。 「お前は運が悪いな」 「…、え…?」 「私の下にいるから、死ねなかった上に武器までおしゃかとなった」 ユアンはへたりと座り込む。聞き慣れたルエスの悪癖を意識の外側で聞いて倒れ込んだ。ルエスは溜息をつく。コイツはなかなか死ねないだろうと。 哀れな事だ。 ゆっくりと担ぎ上げて基地へと戻る。 今夜は酒でも振る舞おう。  
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