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「飼ってないです」
行き先を告げてから、途中まったく口を開こうとしなかった女性客が、突然そう言った。
「え?」
「猫。飼ってないです」
「あ、なんだ。そうですか」
こりゃ失礼しましたと運転手は片手で自分の頭をぽんぽんと叩く。
そして残った片手で車を運転しながら、窓ガラスごしに夕日を見た。もうすぐ日も暮れるであろう。
「さて、○×町に着いたけど、お客さんの家はどこだい?」
「その交差点を、左に曲がってください」
女性が、そっと、指をさして答えた。
やはり、どこかほんのりと猫の臭いがした。
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