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運転手は、女性客の案内通りに車を走らせていた。
「個人タクシーってのも大変でしてね」
日はとうに暮れている。
「私が家にいるときなんか、この車は息子の秘密基地にされてますよ」
車は町の中心から遠ざかり、民家の明かりもまばらとなっていた。
女は相変わらず、道の案内の他は無言である。それでも、運転手は話を続けていた。
「この前なんか、お客さんの足元からケンダマやらヨーヨーやらでてきて、その時はもう…」
「そこを右です」
運転手の会話を遮るように女は指をさす。
「右って…。その道ですか?」
ギョッとした表情を、運転手は思わず顔に出してしまった。
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