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(やっぱり来るんじゃなかった…!)
山道の悪路を走る車の中、運転手は何度もそう思った。
山の樹木がそびえ立ち、月の明かりは届かない。車のヘッドライトが照らす前方のみが、唯一の視界であった。
「運転手さん」
「は、はい?」
突然の女の声に、運転手はドキリとした。
「猫、好きなんですか?」
「猫…?ですか…?」
思いがけない質問に、運転手の声がかすれた。脳裏に、先程の猫の鳴き声が甦る。
「昔、飼われてたって…」
「あ、はいはい。飼ってましたよ。ずいぶん昔ですけど」
ごとごと。と、車が揺れる。何度となく、山の動物達が視界にうつり、気味が悪かった。
「今は飼っていないのですか?」
「今の家は借家でして。簡単には飼えないんですよ。先日も息子が…」
会話をしながら、運転手は徐々に、後ろに座る女に対して不信感を抱いてきた。
なぜか、山道を走る今になって口数が多くなった気がする。
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