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ふと運転手は疑問を抱いた。
先程から気になっていた猫の臭い。はたして、ただ猫を飼ってたり触れたりしただけで、ここまで明確に臭うであろうか。
実際に本物の猫が、この車に乗っていなければ、ここまで臭うはずもない。
(ありえない)
運転手はバックミラーに目をやり、そう思った。
女性客は何の荷物も持たないでこのタクシーに乗ったはずだ。猫を隠し持ってるはずがなかった。
「運転手さん…」
「は、はい」
慌ててバックミラーから目をそらした。
「話の続きを。先日、息子さんがどうされたんですか?」
「いや、たいした事じゃないんですけどね。拾って来たんですよ。子猫を」
ぎゅっ。とハンドルを握りしめ、そう答える。
「それで、その子猫をどうしたのです?」
「ですから、借家なんで、飼う事ができないので…」
そこまで喋って、何故か急に、ドッと冷たい汗が滲み出るような、嫌な悪寒を運転手は感じた。
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