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「――あぃ。了解。すぐに行くわ」
告げて、俺は携帯を閉じた。
暗いビルの階段から腰を上げて表に出る――うん。日は沈んでる。
「ミスリルの朝は日が沈んで始まる、ってね」
死んだ爺さんの口癖を呟きながら狭い路地に出る。
今日も通りに人は少ない。ガリガリに痩せた親子、いかにもって感じの黒人数人。いけすかない華僑連中。
そのほとんどが、まだ未成年。
と言ってもここじゃ年齢なんて関係無いんだがな。
「――ここだよ」
ふいに声。
なるべく自然な動作で声のした建物へ入る。
そこには男。一応見知った顔だ。
「尾行は?」
「無い」
「金は」
「これだろ?」
ポケットから紙幣を数枚出す。グシャグシャの米ドル札だ。
男がそれを数える。徐々に笑みが深まって行く――強欲が。死ねばいい。
「OK。約束の品だ」
男が麻袋を投げてよこす。中身の確認の必要は無い。『契約破棄』はこの街じゃ死刑だ。
首吊りじゃ無くて、集団暴行によるが。
再び通りに出る。
袋の中身を俺は売る。
ガリガリの親子に。
黒人に。華僑に。
ホント、死ねばいい。俺も、あいつらも。
辺りの闇は深さを増す。
――【ミスリル】の朝が動き出す。
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