ハムスター

2/2
前へ
/15ページ
次へ
 昔通っていたピアノ教室の先生が、ハムスターをくれた。先生の家で飼っていたハムスターを、先生の過失でオスメス一緒にケージに入れてしまい、結果として大繁殖したらしい。その繁殖したうちから二匹を貰いうけた。  当時の私世代は、皆がポケットモンスターに夢中であった。故に私はその二匹に「ピカチュウ」「ライチュウ」と名付けた。同じ頃に飼っていた金魚の名は「トサキント」であった。あの頃に動物を飼った小学生ならば、動物にポケットモンスターの名前を付けた経験がある人も多いのではないだろうか。  ハムスターは、とにかく運動の好きな動物である。昼間は大抵寝ているが、夜になると一晩中回し車に乗っている。回し過ぎが原因で、何度か回し車が崩壊した程だ。  うちの二匹は、それぞれ性格が違った。一匹は昼間寝て夜中に回し車で走る、典型的なハムスター性格だった。  問題はもう一匹だ。こちらは昼間は当然寝ているが、夜中になってもさして動かない。気紛れに回し車に乗ったりするが、ノロノロと数回回すのみで、あとはじっとしていた。何か病気じゃないかと疑ったが、彼は健康であり、やはりただの性格だったようだ。  ハムスターらしからぬ彼のお気に入りの場所は、回し車の下だった。もう一匹が回している最中でも回し車の下にいるものだから、そのうち擦れて、頭から背中まで、疲れた中年男性のような薄らハゲとなった。  こいつらを飼ってから十年以上経ち、大学に入った私は、一人暮らしをしながら再びハムスターを飼った。  こいつもまた典型的なハムスター性格だったが、何故か全く人に懐かず、最後まで手に乗るどころか、触らせてくれる事も無かった。  きっと彼は、人間に飼い慣らされたハムスターの中でも、自分達だけは野生を忘れまいとする誇り高い武士系の血筋だったのであろう。顔だけは愛くるしいながら、心の底では信念を燃やしていたに違いない。  ただ餌を替えようとしただけなのに思い切り噛まれて流血沙汰になったのも、今となっては彼なりの武勇伝であり、私にとっても良い思い出である。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加