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兎には、何だか女の子っぽい印象がある。私の偏見である。
だから、初めて飼った動物である白い兎に「ミミちゃん」と名付けたのだが、後日オスである事が発覚して途方にくれた。下らない偏見を持つと、ろくな事が無い。
そんなミミちゃんとの思い出はあまり無い。
いや、あるのだろうが、何しろミミちゃんを飼っていたのは就学前の事である。ほとんど覚えていないのだ。
ただ、ミミちゃんから得た教訓というものが二つある。先に書いた「下らない偏見を持つと、ろくな事が無い」という事と、「基本的にペットショップの店員は信じてはいけない」という事である。
ミニウサギという名で売られている兎がいる。その名の通り、成長しても子兎のままのようなサイズである事が売りだ。
犬にしろ猫にしろ、子供の時は小さくて可愛い。ミニウサギとして売られていたミミちゃんは、いつまでもその小さくて可愛いままなのだ。ペットショップの店員からそういう説明を受け、そんな素晴らしい動物がいるのかと感激した私は、親にねだって買って貰ったわけである。
ところがミミちゃんは、育ってみれば、小学校の飼育小屋でよく見るような、普通の白兎になった。
かなり後になって知った事だが、厳密にいえば「ミニウサギ」という品種は存在しないらしい。
たまたま他より小さかった兎同士を掛け合わせ、「普通の兎同士の子よりは小さく育つ可能性がある」というだけの子兎が、ミニウサギとして売られているのだそうだ。
ミミちゃんの両親は小さかったかも知れない。しかし、ミミちゃんはそうならなかった。子は必ずしも親に似るわけではないのだ。私自身、今は母に似ていると言われるものの、小さい頃は両親どちらにも似ておらず、もしかしたら自分は橋の下で拾われた子ではないか等といらぬ心配をした事がある。
ミミちゃんは、日曜大工を得意とする父が作った小屋を住まいとした。私の家族は、私が小学校にあがる前まで祖父母宅に住んでいた。祖父母の趣味は農業であり、ミミちゃんはキャベツの一番外側の葉や、間引いたニンジンなどをモリモリ食べていた。
そうやって暫く飼っていたのだが、ミミちゃんはある朝、忽然と姿を消した。
空になった小屋は金網が破られ、ミミちゃんの毛と血が散乱していた。野良犬にやられたのだ。
その光景があまりにショックで、涙の一つも出なかった。
可哀相な事をしたものである。
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