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 私が小学校低学年の頃、向かいの家の猫が子を産んだ。その中の一匹を母が貰ってきたのが、私の初めての猫だ。  その子猫はまだ小さく、大人の片手に乗るようなサイズだった。ペットショップで売られている子猫だって、もう少し成長している。せめてその位になってから貰えば良いものを、母は一体何を焦ったのだろうか。  犬猫の成長は早い。毛布の上をはい回るしかしなかった子猫は、すぐに走り回るイタズラ盛りになった。そうなってから完全な成猫になるまで、うちの網戸は張り替えても張り替えても、どこかしら破れていた。  網戸を破るだけならまだ可愛いものだ。猫は度々バッタ等の虫を捕まえて来ては、虫が嫌いな母に悲鳴をあげさせた。虫なら良い。鼠の尻尾と足が廊下に放置されていた時は、虫も爬虫類もどんと来いな私ですら血の気が引いた。  今は、猫でも完全室内飼いにする家が多い。しかし当時の実家周辺の文化は、猫=首輪付けて放し飼いだった。うちの猫もそうだったのだが、これがいけなかった。  私の目の前で猫は車に轢かれ、背骨を折ったのだ。  獣医さん曰く、あと一センチでもずれた所が折れていれば即死だった。ギリギリの所で、命だけはあったのだ。その替わり、猫は下半身の自由を失った。  糞はたれ流しなのでオムツを履かせ、尿は一日数回、人が膀胱を押して排出させなくてはいけない状態になった。人間の赤子より手間がかかる生き物になってしまったが、それでもこちらとしては、生きていてくれただけで万々歳である。  後ろ足が動かない猫は、前足だけで歩く技術を身に着けた。下半身を引きずるので肩の筋肉が発達し、見事に逆三角形の体格になった。たくましいものである。  しかしもう虫も鼠も捕らなくなり、網戸も破らなくなった。やられたらやられたで迷惑なのだが、しなくなったらしなくなったで、何となく寂しかった。  猫は事故の後、一年もせずに死んだ。半年が経過した頃から徐々に弱り、最後は私の膝の上で眠り、そのまま目を覚まさなかった。
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