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凛は悲しい表情で、俯いていた。
「オハヨーさん、照太くん。やっと起きたな。ちょっと寝すぎやでぇ。」
お面の男は、少し高めの声で言った。
「照くん…」
凛は、照太の事をいつものあだ名で呼んだ。
「藤原照太くん、君と凛ちゃんは、政府のモルモットに選ばれましたぁ。」
お面の男はそう言って、パチパチと拍手をした。
そして、説明を始めた。
「今の日本政府はな、ちょっとおかしいんや。今の日本が不景気になったり、犯罪が増えたりしたのは、国民に『愛の心』が無いからだ、なんて言うとる。
そこで、本当に『愛の心』が無いかを確かめるために、愛し合う二人を殺し合いさせる、言わば『実験』を計画したんや。
モルモットに選ばれた人間に拒否権はない。嫌がるようなら『国のゴミとして捨てろ』言われたわ。
好きな子殺すか、自分が死ぬか。ほんま、ムゴイ世の中やなぁ。」
説明を終えると、「吸っていい?」と言って、マルボロを一本取り出し、火を付けた。
「ここはどこだ?」
照太は落ち着いて、状況を整理しようと試みた。
「どこって、バスの中に決まってるやん。照太くん達が乗ってた、修学旅行帰りのバス。」
男はお面を少し上にずらして、口だけを晒して、マルボロをくわえた。
「運転手は?先生は?春香や、公彦は!?」
「まぁ落ち着きぃな。みぃんな『おねんね中』や。ぐっすりとな。バスはオートパイロットに設定してある。」
「お、おねんね中…?オートパイロット?」
「そ、おねんね中や。きっと今頃、良い夢見とるでぇ。」
そう言って男は、アッハハハと笑った。
よく見ると、男は案外痩せていた。
「一応、自己紹介しとくわ。わたくし、大日本帝国政府人民心理研究会の山本言います。好きなものは『女』。照太くんは女食った事あるか?え?ない?なんや童貞か。最近の中二ならすでに経験者かと思ったわ。あれはえぇで。照太くんもはよう凛ちゃん食ったれな!」
山本はまたアッハハハと笑うと、マルボロを灰皿で揉み消した。
「そんじゃ、お互いの仲も深まったトコで、実験開始させてもらいますわ。」
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