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「よしりんよしりん」
「なぁにー? ミユキちゃん」
──石鹸かと思うくらいに白く小さな手が手招きをする。その手の持ち主へ、ガキの頃の俺は嬉々として寄っていった。
「あのね、ちょーだい」
「? なにをー?」
「それ」
そう言って“美幸ちゃん”は俺の方を示す。人を指さしてはいけません、なんてそんなお約束も園児の前ではトイレの貼り紙レベルの効果だろう。
「…………僕?」
「違うわよ」
首を傾げるガキの俺。否定する美幸ちゃん。
「それ」
「……?」
後ろを振り向いてみるが、何もない。それでも美幸ちゃんの白く美しい指先は確かに俺の方へと向いていた。
「右目」
美幸ちゃんは蝶のようにふわりと笑って言った。
「──よしりんの右目、わたしにちょーだい」
「……え……」
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