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「うん。赤ちゃんが頑張って出て来ようとするからね。だから弱音言っちゃ、赤ちゃんに笑われるよ」
美恵子が由紀子のお腹をさする。
雅人が両手いっぱいのタオルを抱えて持って来た。その姿はまるでお母さんの手伝いをする小さな子供のよう。
「他は何がいる?」
雅人が聞く。
「喉渇いたかな」
雅人は冷蔵庫からパックのオレンジジュースを取り出すと、由紀子に渡した。
「産婆さん二十分ぐらいで来るとさ」
居間に戻って来た良幸は、いつの間にか二本目のビールを手にしていた。
「それにしても、予定より早いな。そもそも、医者の言った予定日は合ってるのか疑わしい…」
プルタブをぷしゅっ、と開け、三回喉を鳴らす。
何故だか良幸は都会の病院を毛嫌いしていた。特別、何が悪いという訳ではないが、彼曰わく、食えない(気の合わない)奴が多いからだそうだ。
「大丈夫だよ。近所で腕の良い産婦人科だって太鼓判押されてる所だったから。それに予定日は、ずれるもんだよ。ぴったり当たる人なんて少ないから」
雅人は自分用にも出したオレンジジュースを、ストローで吸っている。
「そうそう。お父さんは意固地なんだから、いつまでも昔の事で…」
美恵子のその言葉で良幸は、ふんっ、と鼻を鳴らした。
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