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良幸の行動が面白く感じたのか、由紀子はクスッと笑った。
途端にまたお腹が、じりじりと痛み出した。顔をしかめ、お腹を抱えるように手を当てる。
「陣痛が来たか?」
雅人は由紀子の様子を見て、そわそわと落ち着かない。
「雅人。今からそんな状態だと産まれるまであんたが持たないよ」
美恵子が諭(さと)す。
雅人は、あぁと小さく頷き肩の力を抜いた。
由紀子の呼吸は荒く、汗が額から滲(にじ)み出ている。
「今は陣痛の感覚が長いから、まだこれからよ」
由紀子の額の汗をタオルで拭きながら、美恵子が言った。
由紀子はこの痛みがまだまだ続くのかと思うと、気が滅入(めい)りそうだった。…女は苦労する事が多いのに、男は楽ばかり。痛みに耐えながら、由紀子は思い返していた。
結婚する前、雅人と由紀子が出会った東京で同棲していた頃。お互い職に就いていたが、家事は決まって由紀子の役割だった。
朝は早くに家を出て、夜遅くに帰って来る雅人は、一切家事を手伝わない。由紀子もそれは承知の上で同棲を始めた。
いつもありがとう。雅人はそう言って由紀子の意欲を高めて来た。由紀子自身も文句ひとつ言わなかった。
だが、本音は違う。…どうして私ばっかり。たまには手伝って…。そうは思っても決して口に出す事は無かった。
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