嘲笑の陰

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親族が居ないなんて勝手な妄想でしかないのに、決め付けて引かない。 そう。 その性格だからこそ罠にかかる。 「まさか俺が嫌だからとか言うつもりじゃねぇだろうなぁ」 私の顎に無造作に手がかけられ男の方へ向かせようと力が込められた。 「こっち向けよ、ほら何か言えよ!」 時々、荒くなる声。 まだだ。 もっと嗜虐心を誘わなければならない。 「あぁ?言葉を忘れましたかぁ」 弱々しく頭を振りうなだれて見せた。 「来いよ、ほら!」 その場で座り込み掴まれた腕を振りほどくそぶりをする。 「はぁ、馬鹿じゃねぇのか?座るんじゃねぇ!」 無理矢理に腕を引っ張られる。 「立て、立てよほら!」 ちぎりかねない勢い。 痛覚のある相手だと脳裏をかすめもしないのだろう。 「もたもたするな、さっさと立て!」 痛い。 痛い。 早く来て。 「気持ち良い事してやるって言ってんだ、素直に喜べよ!」 腕時計をもう一度確かめると予定の時間は過ぎていた。 近所の家でドアが開く音や窓辺のカーテンを開く音がしはじめた、夢中になっている男は自分が出す声の大きさと内容の酷さに気付いていない。 男の後方に制服姿の人物が見えた。 「触らないで」 微かに呟く。 「何か言ったか?」 厭味たらしく男が問う。 「人殺し」 言葉が終わらないうちに頬に平手が飛んだ。
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