嘲笑の陰

14/54
前へ
/54ページ
次へ
事故のトラック運転手。 罪も本人だという事も男は認めたくないらしい。 あらぬ方向を向く。 「親も家も思い出も奪っておいて私まで力付くでモノにしようなんて!」 私の言葉に配達員は目を見張った。 後ろからやって来た二人の配達員も唖然として数歩手前で立ち止まる。 「何だと!」 「そんな事しようとしたんですか?」 配達員達は口々に声を上げた。 「貴様ぁ、真面目に働いてる俺達にどれだけ泥塗れば気が済むんだ!」 配達員の一人がぐっと詰め寄った。 「退職金を求めてもめてるらしいが、この事がバレたらむしろ保険すらおりずに損害賠償請求されるんじゃないのか?」 別の配達員が冷静な声で告げる。 優しげな年輩の配達員は私の手を取り起こしてくれた。 配達員の罵倒が続く。 塀の端から騒ぎを聞き付けた大家の奥さんが覗いていた。 そっと近付いてくる。 「大丈夫?怪我は無い?警察呼んであげましょうか」 大声だったので奥さんも事態を把握している。 「お願いします、この方が担当なんです」 名刺を渡すと頷いて安全な場所へと奥さんは移動した。 運転手に見咎められたら危険なので賢明な選択だと思える。 警察が来るまでに仕掛けなければ。 成功するとは限らない。 食いついて。 まだこれでは終われないから。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加