嘲笑の陰

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トラック運転手を配達員二人が挟む。 仕事の状況。 勤務体制。 客からの疑惑。 冷やかし。 たかが二週間で配達員達はかなり理不尽な目にあっているようだ。 とめどなく溢れる苦情にトラック運転手は言い逃れの勢いが弱くなっていく。 奥さんがトラック運転手を警戒しながら戻って来た。 「連絡したから大丈夫、辛かったねぇ」 私の手を握る。 温かくしっとりした手は武骨な男の物とは違い安心できて涙が出そう。 「俺はちゃんと謝罪してるし本人からは恨まれてないんだから。なぁ、そうだろ」 配達員に囲まれ不利になったトラック運転手が口論の矛先をこちらに向けてきた。 「謝罪って何?悪いと思っているならお父さんとお母さんを返して!」 トラック運転手は口ごもる。 「家もお金もいらない、いらないわ!だから返してよ!お父さ……ん、お母さん……返してぇぇ」 心のままに言うだけで号泣とも呼べる涙が流れて服まで濡らす。 「許さないわ絶対!どうして死刑じゃないの?二人も……殺したのよ!」 ビクリと運転手が硬直した。 「一番重い刑になっても足りない!!」 まくし立てる。 「軽減の為にわざわざ謝罪に来てたんだぞ」 ムッとして運転手が言葉を返す。 「何十年と刑務所に入っても足りないわよ!」 刑を重く陳情する。 これがキーワード。 そこだけはしっかりと押さえながらも騒いでいると頭が真っ白になる。 どれだけの時間が経ったのか担当の警官が到着していた。
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