嘲笑の陰

若手の警官がトラック運転手に寄って行く。

「何故、アパートを一人で訪ねた？女性宅だから充分に配慮しろと言ったはずだが」

釘は刺していた様子。
当然の配慮だろう。

「身寄りが無いからわざわざ心配して来てあげたんですよ」

トラック運転手はへつらって笑う。

「彼女は親族が近くに居る、喪主は叔父にあたる人だったが」

冷静な警官の声。

妄想からずれた現実に驚きを隠せないトラック運転手。

大家の奥さんが私に起きた事を、自分に解る範囲で年輩の警官に説明をしてくれている。

優しい人。

私の肩を自分の方に抱き寄せたまま庇う様に話している。

この数週間の出来事とトラック運転手の非道な振る舞いでズタズタにされた心に浸みて私は泣き続けた。

それをトラック運転手が暴力を振るったせいだと配達員の一人が警官に訴える。

暴力と聞いて警官は私の顔をじっくり観察した。

時間が経過してもうっすら頬が赤いらしい。

「診断書を取れば傷害で訴える事もできますがどうしますか？」

もちろん診断書を取りに行くつもりだった。

「嘘だろ？その程度で傷害って有り得ないだろ」

トラック運転手は若手の警官に身柄確保された。

今すぐ病院へ行かなければならないと年輩の警官が私を急かす。

このままだと申し訳ない気がして、家具を組み立てに来た配達員を振り返る。

「証言が要るなら声をかけてください」

「店には電話したから我々は大丈夫です、社会貢献して来いと言われました」

笑顔で応えてくれた。

「病院について行くわ」

大家さんはしっかりと私の手を握り直して言う。