嘲笑の陰

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いかにもお土産用のビニールで個別包装された洋菓子をつまみながら大家の奥さんの話しを聞いていた。 「紅茶のお代わりいりますか?」 今日買ったばかりの紅茶がもう役に立つなんて。 笑顔で立ち上がると不思議な顔をされた。 「その洋服、縫製が少しおかしくない?」 思わず硬直する。 服に自分で手を入れた部分。 素人だし特別に裁縫が得意でもない。 家族の服を見たてる主婦には何となくでも違和感があるのだろう。 私、今驚いた顔をしたかしら? 慌てれば何処がおかしいかさらに見られる事になる。 納得させた上で追求できない言い訳が必要。 「最近買った安物ですから、正規の値段で全部買い直せなくて」 実際、仕事用の服は高くて足りない分を少し買い足すだけで苦しかった。 日用品やその他必需品を揃えている最中なので出費は抑えたい。 「あら、あらまぁ」 粗悪な品物を仕方なく購入したのだと判断した様子。 大家の奥さんは服から視線を外す。 「紅茶入れますね」 私は作り笑顔を浮かべて台所へ向かう。 大丈夫。 ばれてない。 はっきり判る手直しではないのだから。 ボタンの付け替えぐらい誰でもする事よ。 落ち着く為に何度も心で呟く。 額にうっすらと汗をかいていた。
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