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「違う!俺は騙されたんだぁっっ!!」
住宅街に絶叫が響く。
回転灯の光りがくるくると赤く周囲を照らす。
私は無表情に着衣の乱れを直した。
「捕まるのは嫌だぁ、あの女が悪いんだ!」
見苦しくもがく男を警察が取り押さえる。
聞こえてくる罵声。
「おとなしくしろ現行犯だろう!」
「どう騙されたらあの状況になれると言うつもりだ!」
始まりは一ヶ月前。
自宅にトラックが突っ込んだ。
たかだか一瞬の出来事で今までの全てが崩壊してしまった。
居間は大破。
両親は他界。
穴が穿たれた家。
2階は崩れ落ち壁はボロボロの姿を晒してなおぐずぐずと壊れていく。
雨風を避ける機能すら無くした家など住めたものではない。
近くのアパートを世話して貰い、必要な物だけを倒れかかりそうな家から持ち出した。
布団すら無いガランとした部屋。
空しさが虚しさを呼ぶ。
あるはずのモノが無い他人行儀な部屋は、いつも笑いかけてくれた両親が今いない事を痛烈に印象づける。
ピンポーン。
玄関のチャイムの音が聞こえた。
何度も鳴らされていたのに気付かなかっただけらしい。
待ちくたびれた顔の警官が私の姿を確認し、事務的に内容を伝えて行く。
両親は検死解剖され通夜や葬儀が遅れる事、自宅は倒壊の危険がある事、マスコミが来ている事。
私が住んでいた家なのにロープが張り巡らされ、近寄る事すら許されないなんて。
警官が去った後、カーテンすら取り付けていない部屋の中で私は大声で泣いた。
「……お父さん、お母さん」
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