嘲笑の陰

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まだ成人したばかりの私ではあてにならない。 叔父夫婦が全てを取り仕切ってくれた。 叔父夫婦は優しい。 いきなり両親を失った私を気遣い、仕事を辞めて隣県にある叔父宅で一緒に暮らさないかと尋ねてきた。 勤め始めたばかりで高くはない給料だから、ありがたい申し出ではあったがまだ実感が湧かず保留にして貰う。 2週間が経過した頃。 警察はとんでもない男を私の前に連れて来た。 件のトラック運転手である。 交通警察により逮捕され留置場で一週間近く過ごしたらしい。 日々の取り調べも一段落したので仏前に手を合わせたいとアパートを訪ねて来たそうだ。 形式上ね。 私にはそうとしか思えなかった。 アパートに立派な仏壇などあるは筈もなく、簡素なテーブルに奉られた位牌に運転手は手を合わせる。 これから何度も裁判所に喚ばれる、反省していると見せた方が有利だ。 その為に利用される両親の位牌が、悲哀を帯びて見えるのは私だけなのだろうか? 「……、……!」 運転手が芝居がかった台詞で許しを請う。 その目は盗み見る様に私を嘗め回し、さも許されて当然だと考えているのがありありと判った。 運転手が喚く度に獣くさい息が吹き掛けられる気がする。 逃れたい一心で運転手の言葉はあまり頭に入らない。 運転手はまるで自分に酔っているようだ。 私の様子にはお構いなしで続けている。 お父さん。 お母さん。 この軽薄そうな男が二人を殺した犯人です。
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