嘲笑の陰

私の冷めた態度が気に入らないらしく運転手の顔付きや口調が微妙に変わった。

「一生菩提を弔うと言っているのに、その対応はないんじゃないですかねぇ？」

ねっとりとした言い方。

この男は何を言っているのだろう？
一生と言われたらありがたがるとでも思っているのか？

今、両親は居ない。
これから先もずっと帰って来ることはない。

尋ねても応えてはくれない。
落ち込んでも慰めてはくれない。

ちっぽけな黒い位牌を両親と呼ばなければならない。

この先、一生。

なのに何故。
私が感銘を受けると思えるの？

「ちゃんと話しを聞いてるんですかぁ？」

ちゃんと運転していたんですか？

「こちらが誠意を見せてるって言うのに」

自分のやった事を帳消しに出来るほど今の弁明が素晴らしいと言うの？

心で反論しながら下を向いていると男は徐々に声高になっていく。

「事故から間もない、お嬢さんはショックを受けているだろう」

空気が悪くなって来たところで警官が割って入った。

穏やかに私に語りかけ決まりきったお悔やみの言葉を言うと、一気に場の緊張が解け当初の来訪目的に戻った。

「では我々はこれで失礼致しますが、何かありましたら遠慮無くご連絡下さい」

警官がにこやかに纏めて帰るように運転手を促すと、不服顔をしたまま運転手は渋々従う。

わりと年輩の警官は少し顔をしかめた。

もう三十路に入っているのに運転手には相応の分別が無い。

警官は私と同じ事を考えているらしい。

この男は何かしでかしそうだと。