嘲笑の陰

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位牌の前に行くと運転手はこちらを盗み見ながら手を合わせた。 さあ拝んでやったぞと顔に出ている。 遺影すらないのは自分が家を大破したからだと自覚しているのだろうか。 こめかみの奥がズキズキと痛む。 怒りで喉が渇く。 玄関側にある小さな台所に向かい冷蔵庫に手を伸ばし、冷えたお茶をガラスコップに少しだけついで喉を潤す。 はぁ。 お茶と一緒にもやもやとした気持ちを飲み込み、やっと一息つく事が出来た。 何故、私が我慢しなければならないの? これはいつまで続くの? 許したフリをしなければ毎日訪問されるのだろうか? ぼんやりしていると左腕をいきなり掴まれた。 「呼んでるんですよ返事くらいして欲しいね」 振り返ると運転手の顔が近くにあった。 「な、何でしょう」 声が上擦る。 今、飲み干したお茶が干上がる。 こんな至近距離でこの男の顔を見なければならないの? 「明日は何時にくればいいのかと聞いてたんですよ、待たされたくないんでね」 男の目は私の顔と胸元を交互に行き来していた。 「し、仕事が終わらないと帰りませんから毎日来ていただかなくても」 いっそ来ないで欲しい。 胸元はしっかり留まっているが凝視されては透けているのではないかという気になる。 「へぇ、こっちは職場で退社手続きを取らされているのになぁ」 まるでこちらが加害者扱いだ。 男の顔は上半分が動かなくなった。 眉や目元は微動だにせずに口元だけ別の生き物の様に動く。
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