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オペラ座の怪人が着けていた顔半分を覆うマスクを思い出させる。
見開いた目は無機質で生き物にある滑らかさが感じられない。
薄気味悪くなって背筋がぞわぞわしてきた。
運転手は不意に顔を上げ私に目線を合わせる。
無機質なままの目は死人に掴まれたような錯覚を起こさせ、必要以上の恐怖感を植え込む。
渇いて唾も出ず喉だけがごくりと鳴った。
「あんたさぁ、生活に困ってんだろ」
確かに家が半壊になり急場の生活は大変だ。
「こんな何も無い部屋に一人で住んでさぁ、兄弟も助けてくれる親戚も居ないんだろ」
私は成人してるし。
仕事の都合もあるし。
助けてくれる叔父夫婦がいるし。
部屋に何も無いのは急だから揃っていないだけだし。
恐怖感が混乱を呼び、取り留めなく思考が空転する。
運転手の目は確かに私の方を向いているのだが、通過して遠くの景色を見ている様に感情が読み取れない。
運転手の口調は徐々に崩れぞんざいな態度になっていく。
ただねっとりと絡み付く語尾は変わらなかった。
「なぁ俺が援助してやろうか」
援助?
「女が一人で生きられる程世の中は甘くないからねぇ」
何が?
「あんたみたいな小娘は男に尻を振るのがせいぜいなんだ」
掴んだ腕を引き私に正面を向かせると空いた手で右肩も掴まれた。
男が身をよじり体を擦り付けてくる。
私は硬直して猫にマーキングされる柱みたいに突っ立っている。
数分と経たないうちに玄関前で人の声がした。
続いて玄関の呼び鈴が響く。
その音で硬直が解かれた私は玄関の扉へ向かおうとした。
男は行かせまいと掴んだ手に力を込める。
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