嘲笑の陰

「はーい、今出ます！｣

玄関に向かって声を張り上げた。

運転手は驚き人間の表情に戻る。

「すみません、配送センターの者です！」

台所は玄関のすぐ近くにあり私の声に反応して元気な挨拶が返ってきた。

「ちっ」

耳障りな舌打ちをしてから男は離れ、監視するみたいに腕組みをして睨み始める。

私はあの腕から逃がしてくれた相手を玄関扉の内側へ笑顔で迎え入れた。

「ご注文頂いていたラックの配達に伺ったんですが組み立てをご希望でしたよね」

配達員は邪魔そうに自分を見る男の存在に気付き困ったように尋ねる。

「ええ、私では組み立てられませんからもちろんお願いします」

配達員は頷いてから軽く会釈すると外で待機していた仲間を呼ぶ。

「急いで仕上げますから十五分ぐらいのものですよ」

いかにもベテランと新人といった二人組はテキパキと仕事をこなした。

荷を運び込み、梱包を解き、順番通りにネジを回していく。

立ち尽くしていた運転手は手持ち無沙汰のまま暫く粘ったが仕方なく重い腰を上げた。

「また明日だ」

掴めるぐらい近くまで寄り頭から爪先まで獲物を確かめる動作をしてから玄関を出る。

扉は荒々しく閉められ不機嫌さを表していた。

とにかく出てくれてよかったと救いの主達の作業を眺めながら顔が綻ぶ。

「何か問題がありましたか？」

見られる事が珍しいのか怪訝そうに聞かれた。

「二人だから早いなぁと思って見てただけです」

適当に言ってみる。

「こちらみたいに女性宅に男一人だと問題ですから」

手を止める事なく配達員は続けた。

「最近この辺りで出会い系サイトで遊んでいたトラックが大事故を起こしたそうですしね」