嘲笑の陰

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まさか、この辺りであった事故とは我が家?出会いサイトで遊ぶっていったいどういう事? 「いかがわしいチャットをしていたなんて驚きますよね」 配達員は私が困惑していると気付かず続ける。 「世間の目は厳しいから小さな仕事まで二人一組じゃないと配達出来なくなって、近辺の運転手は皆腹を立ててますよ」 運転中にチャットをしていたの? 「若いお嬢さんはワイドショーなんて見ないからあまりご存知ないでしょうね」 あまりにも唖然として声も無かった。 「奥様方は事故の事を詳しく知っていて、そんな奇特な運転手は滅多にいないのに私達まで疑うんです」 世間話をしながら作業は進んでいく。 適当に相槌を打つだけで後の会話は記憶に残らなかった。 まだこの部屋にはテレビが無い、ローカルなワイドショーで取り沙汰されている話題ぐらいでは携帯ニュースは配信していない。 私は何も知らなかった。 ただの事故だと思っていた。 私達家族はふざけたチャットの為に無茶苦茶にされたのだ。 両親の命まで奪われて。 それなのにあの男はまるで人事の様な態度で私に援助をしてやるからと迫った。 どうやったらあの考えに到るのか理解出来ない。 一般的にも理解されないはず。 怒りが高ぶり過ぎて発狂しそうになる。 小刻みに手が震えた、なんとか止めようにも止まらない。 口も震えていて歯がカチカチ鳴った。 許せない。 あの運転手が許せない。 カッと見開いたままの目から涙が零れた。
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