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そしてリボンを結び終えた彼女は、ブレザーを羽織ると同時にハミングを終え、その内ポケットから細いピンクのコームを取り出した。
数回、それを髪に通した可憐。さらりと艶のある髪が流れる。それからコームを懐にしまう。
これで用意は整った。
「さてと」
ピョンと跳ねるようにして部屋のドアへと近付いた可憐は、そこに立て掛けてあった鞄を手に取り一気に階段を駆け降りていく。
そんな彼女の計画では、そのままの足取りで玄関を出て学校へ向かう、というものだった。
しかし、
「朝ごはんくらい食べていきなさい」
革靴を履きかけた彼女を、母が呆れた様子で背後から呼び止めてきた。
焼けた食パンの香りと、焦げたバターの匂いが鼻の辺りをくすぐる。
「えー、別にいいよぉ……」
それは返事の通りで、彼女は今、そこまで空腹を感じてはいなかった。食欲も湧かないし、到底朝ごはんを食べる気にはなれなかった。
それどころかむしろ、新学期早々学校に遅刻するかもしれないことで彼女の頭は一杯だった。
もちろんノーブレックファースト、それが春休み中の毎日の習慣となっていたのも理由の一つ。
だからこそ彼女は間怠っこそうにそう答えたのだ。
「残してもいいから少しは食べていきなさいって。そんなんじゃいつまで経っても大きくならないわよ?」
彼女が最もコンプレックスに感じている部位を見ながら母は言った。
流石の可憐もそれには怯んだ。
「う……」
もちろんそれもこれも、親として彼女の健康を一番に心配して言っていることなのだろうが、子供の側からすればどこか傍迷惑に感じてしまうのもまた事実。けれども、これ以上何かものを言ったところで結局はいたちの追いかけっこ。それどころか、意地を張れば張るほど自分への精神的被害が大きくなるばかり。
そう感じた可憐は溜め息を一つ、履きかけた革靴を脱ぐや否すごすごとダイニングへと向かった。
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