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雨空学院の売りはおおらかな姿勢だ。
と、いうわけで最初の席も全くの自由だったのだ。
空葉は迷わず、窓際の一番後ろに座った。
荷物を下ろして窓を見て、うっとり。
グラウンドの端っこの方に、空葉にとって理想のお昼寝スポット、原っぱが存在していた。
ここに入学した理由もそれだ。今は同じクラスになった小学校くらいの時からのつきあいの秋山紅葉がこないのでまったりとくつろいでいた。
普通の人からのズレ具合は変わらない。
ちょうどまったりし始めた頃、彼女は人生で一番走っていた。魂を燃やしていた。
表札が見えてくる。
位置なんてわかっているのだ。もし、もしも自分が憧れたあの人ならば必ず───。
自分の予想の位置に視線を向けた。頬杖をかいてうっとり外を見つめる可愛い感じの男の子を発見。
さっきまでの俊足はどこへいったのか、ふらふらと歩を進めることしか出来ない。
それでも。
確実に。
まず一歩。
そして二歩。
さらには三歩。
止まらずに四歩。
振り返らずに五歩。
それでも緩慢に六歩。
──期待に胸をときめかせ、名を呼んだ。
「あの…空葉さん…?」
振り向いた顔には疑問符が浮かんでいた。
わかっていた。
忘れられているのは覚悟の上だ。
と、あきらめかけた時に、空葉は皿にした手のひらにもう片方の手を落とし、いかにも閃きました!みたいな笑みを浮かべていた。
「緋姫ちゃんだ!」
心臓が、止まった。
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