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その子はふらっと歩き出す。一歩、また一歩。思わず呼び止めてしまった僕を、哀れむような目で振り返ったその子は、そっと。鈴の音の響くような声で、「あなたも……いらっしゃいますか?」
そうして、そっと手を差し延べる。細く、繊細なその手は今にもおれてしまいそうな危うさがあった。ただ、その少女には、そんな危機感すら払拭するほどの雰囲気があった。
「あなたは……いいや、お前は、こっちに来ちゃダメだ。ただ、どうしても、と言うならば……」
その少女は、和服の袖から、音も無く人振りのナイフを取り出した。月光を反射したそれは、淡く彼女の顔を照し、返り血を鮮明に写し出していた。
「お前は……俺を、覚えていてくれ」
少女は、笑っていた。花が咲いたような、可憐な表情で。ナイフの光と共に……。そして、徐々に近づいてきた。自分は凍り付いた。この後、何をされるかわかっていたから。
そして、その間に彼女が目の前に立っていた。
「じゃあな」
と、言ってからナイフを振り上げた。だが、頭の上で止めた。そして、
「お前じゃつまらない」
と、言って元来た道へ戻っいった。自分はその逆方向へ歩いていった。
次の日同じ場所へ行って
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