第二章

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 結果を楽しみにしていると、リョウは楽しそうに自宅へと向かって行った。  俺一人。店を目の前にして、重い足取りが余計に重くなっていた。地面から手が出て、靴をがっしりと握られているような感覚だ。こんな気分でこの店に来るのはきっと初めてで、どうか二人が居ませんようにと、目を瞑って深く息を吐いた。  ショートカットの小柄な店員が、大きな袋を持って店から出てきた。キョロキョロと周囲を見渡した後、ゴミ箱に向かい、肩を落としたのが後ろ姿でもわかった。  緊張と期待と不安とを抱えて待っているのだろう。  嫌な気分だ。けれど、彼女から死角になるこの場所に、ずっと立ち止まっているわけにもいかなかった。 「みきちゃん」  静かに、声をかけた。彼女はピタッと動きを止め、やたらと時間をかけて振り向いた。  恐る恐るという表現があるけれど、それに当てはまる動作。 「こ、こんばんは」  怯えた子犬を見たことがある。身を縮めて様子を窺うその仕草は、今の彼女そのものだ。 「こんばんは」  無理矢理に笑ったみきちゃんを、もしかしたら泣かせてしまうかもしれない。それは、困る。慰め方なんて知らない。けれど、言わなくてはいけない。  漸く、体が動いた。  俺は勢い良く頭を下げて、断りの言葉を、謝罪と共に発した。その瞬間、スッと体が軽くなるのがわかった。しがみついていた何かが剥がれて、心の中で俺に手を振った気がした。  そして好きな人がいると告げた時、作り笑いではないみきちゃんの笑顔があった。それは哀し気で、けれど、涙はなかった。  どこかにぽっかりと穴が開いたように、風が吹き抜けた。いやもしかしたら塞がったのかもしれないけれど、とにかく、スッキリしない。解決したのにも関わらず、なにかが渦を巻いて纏わりついている。  それを消し去りたくて、外に出た。もう夜中だけれど、時間なんて気にも止めず、起きていた親の俺を呼ぶ声にも応えず。一人、夜の道を走り抜けた。  もう暫く着ていなかった。だから余計、ここに来れば変わるかもしれないと思ったのだ。誰もいない静かな暗闇の中で、電灯だけが怪しく照っていた。  体はじんわりと汗ばんで、心地よい呼吸苦が肩を揺らす。俺は肩から掛けていた鞄を下ろし、閉ざされていた中身に手をかけた。懐かしい感触が伝わってくる。目の前にはうっすらと浮かび上がるバスケットゴール。  冷えた空気が、熱を帯びた。
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