荷馬車に揺られたほうが楽そうな空間で

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「なかなかいい滑りだしじゃん吉田」 若干あぐらが大きくなった田中が声をかける。 「そいじゃ次は俺っちの話を行かせてもらいます。」 田中は意気揚々としているがいつも最初の一つだけで、途中からは無口になる特徴を5日目あたりから把握している。 「今日俺っちは、透明人間が存在する可能性を体感してきた話をさせてもらいます」 うん、いい感じにブッ飛んでいる。 先輩はメモに『透明の』と書いていた。 「この話は今朝思い出したんすけど、あれは高校3年だったと思います。そん時の女は高層マンションに住んでたわけで、確か17階が家だったと思います。やる事やって、気が付きゃ外は真っ暗になってました。」 どこで出てくる透明人間。 田中は真剣な目をしている。 「んで帰ることになって1人でエレベーター乗ったんすよね。わりかし新築のマンションでエレベーターなんか新品同様で、あの何とも言えない新品の匂いが妙に心地良かったのを覚えています。が、11階に差し掛かったくらいに事件は起こりました。突然あのエレベーターの匂いは消え、物凄い屁臭がしてきたんすよ。しかもかなりの殺気を含んだ屁の匂いでした」 僕は殺気の含まれた屁を嗅いだ事が無いので状況がよくわからない 「俺は自分の尻に違和感が無いことを確認しながら辺りを警戒しましたよ。しかしエレベーターには自分しか乗っていません。その時脳に直接『背を見せるな』って声が過りました。それは死んだじぃちゃんが常々言ってた口癖でした。俺は反射的にバックステップを踏み壁に背を合わせました、同時に急所となる喉と心臓を手で押さえ極度の内股になり金玉を守りました。時間がゆっくり進む感覚に陥りマジ焦ったっすよ、『死ぬ直前はねぇ時間がゆっくり進むんだねぇ』ってのが、ばぁちゃん最後の言葉っしたから」 つい最近田中のばぁちゃんに会った気がするのだが… 「すると突然エレベーターが3階で停止しました。なんとこんな透明人間に狙われている危険地帯に女子高生が2人組で入ってきてしまったんです。俺はさっきとった態勢のまま『気を付けろ、狙われているぞ』と大声で叫びました」 先輩はメモに『透明のエレベーター女子高生叫ぶ』と書いていた。
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