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時計の針がワルツを踊り、気まぐれに真上を見上げる。黄金の獅子のたてがみが、空のてっぺんで地面を柔らかく照らす昼のことだった。
デアズベリーの外れに、のどかな村がある。何もないところだが、川の手前に大きな花畑があることで有名だ。
それも、誰かが手入れをしているわけではないのに、大変美しくみずみずしい花が、1マイルは広がっているとの噂だ。ここが楽園の最果てと言われても頷けるような、それは美しい景色らしい。
『……鬱陶しいわ』
しかし、この美しい景色にはそぐわぬ暴言を吐く少女がいた。
彼女の名前はアリス・リデル。
使用人が12人いる、デアズベリーの裕福な家に生まれた。遠い学校には通っておらず、4人の家庭教師に勉強を教わっている。
父と母から受け継いだ豊かなブロンドと、幼く小さいながらも美しい形の鼻と唇。この田舎では彼女は持ちすぎてしまっていたのだ。
『のどかなのも結構だけど、退屈極まりないわね』
まだ齢12の少女は好奇心が非常に旺盛で、スリリングなことが大好き。最近、姉のマチルダもどこかに行ってしまい、遊び相手がいない。見慣れた美しい風景などは彼女の憂いを増すだけだった。
『どうせなら、喋って踊るウサギでもいないかしらね』
愚かで奇妙な夢を語るる少女だが、その瞳は幼いながらに恍惚に輝いている。
自分の好きなウサギと話し、それどころか共に踊れたならばどれだけ嬉しいことか!そんな、至って単純な理由。
しかし少女は、それを頑なに夢見るのだ。
そう思いながら、寝返りをうつ。草が肌に擦れてくすぐったい。細めたアリスの視界の端に、花ではない白い何かがちらと映った気がした。
アリスがそちらに目をやると、猫のようにまんまるな、あの愛らしい目は更に見開かれた。
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