ただのお願い

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  「……さて、んじゃー俺は帰るとするわ」 「あ、うん」 棗が立ち上がったので、あたしも食器を洗う手を止めて、狭い玄関まで付いて行く。 「じゃーな」 ニッと笑って手を上げる棗。その笑顔を見て、藍の言葉をふと思い出した。 『都にも問題はあったと思うよー? 男の子を女の子に間違ってた訳だしね』 あたしだって、こいつに腹が立った。……少しだけ、傷付きもした。 でも、もしそれがこいつも同じだったとしたら…… 今、謝らなかったら、この先ずっと言えないままだ。 何となくそう思うと、自然に声が出た。 「棗」 「ん?」 「昨日……ごめん」 何が、とは言わない。 棗はビックリしたみたいに、大きな目を更に大きくしてから、 ふわりと、優しく笑った。 「ばーか」 「なっ……」 人が謝ってるのに何だそれ!と抗議しようとすると。 「飯、まじで美味かった。さんきゅ」 あたしの頭をポンと叩いて、奴は出て行った。  
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