始まりを告げる声

7/10
前へ
/428ページ
次へ
しばらくして、落ち着いた頃に両親から無事を確かめるための手紙が届いた。 私は返事を書く勇気が出なかった。 本当は謝りたい。だけど私の中の弱い部分が勇気を奪って行ってしまう。 それから時が流れて一年が経った。毎日のように届いていた両親からのメールは次第に数が減っていた。中学を卒業すると同時に仕事を始めた私は十六歳になっていた。最近はすっかり仕事にも馴れて一人暮らしを楽しむ余裕が出来たし、高校で習う筈だった勉強も何とか独学で知識を得ることが出来、毎日はとても充実していた。 なのに私の心は日に日にもやもやした物がたまっていく。 気が付いたら鼻歌を歌ったり、紙に音符を書いていたり。 「勝手だな、自分から歌をやめておいて」 ダメだ。確かにまた歌を初めることは簡単だ。 でも今の私にはまだあの時言われた「大切なもの」がわからない。 でも、そんな事を知る術を私が知るはずもなかった。
/428ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加