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六月某日。
野外演習の十日後に当たるその日、イフリート山脈は執行会により封鎖されていた。
石段の先ーー“英雄の社”の境内で警備の生徒が数名、山脈内の調査について打ち合わせをしていた。
「お勤めご苦労様です、皆さん」
「あっ、ローリエ先生!」
優しげな笑みに生徒たちーー特に男子生徒は頬をゆるめる。普段は猛者として知られる彼らもローリエの前では年相応の子供だった。
赴任してわずか二ヶ月弱だが、ローリエは完全に学園に溶け込んでいた。ある使命を帯びながら、静かに、速やかに周囲と同化しつつあった。
「これ、差し入れです。よかったら皆さんで食べて下さい」
「うわぁ、ありがとうございます!」
「いただきます、ローリエ先生!」
学生街で人気のランチセットの入った袋を手渡すと、生徒たちは歓声を上げた。子供らしい一面に思わず”本物”の笑みが零れる。
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