断章 そして、荒野で”魔女”は懺悔する

5/13
前へ
/506ページ
次へ
「中を見てきても構いませんか」 「はい、教職員の立ち入りは特に制限されていませんので。ですが、建物が一部崩落しているばしもあるので、くれぐれもお気を付けて」 「ふふっ、丁寧にありがとうございます」 生徒たちに別れを告げると、境内の中へと入っていく。ここ最近は事件の後始末に追われ、ゆっくりと調査も出来なかったのだ。 とは言え、事の顛末は大体把握していた。”三色柱”に唆された”執行長”が混沌一族、特に先代首領を殺された怨みからカイ=ラウクスを襲った。 その場に居合わせたミント=ラウクスは兄を守る為に戦闘に参加。他の者たちを巻き込んだのは”三色柱”からの要請といったところだろうか。 これまでに得た断片的な情報を再構成した結果、このような推測が導き出されていた。もっとも、”叡智”を司る魔術師である彼女からすれば児戯に等しい考察であった。 「なるほど……これが……」 瓦礫の中にひっそりと埋れていたのはとある女神の像。漆黒の鉱物を用いて作られており、右手には長剣を携え、左手には稲妻を握り締めていた。 女神の足元には小さな台座が付けられており、そこには共通(グリム)語でも古代語でもない、現代には存在し得ない体系で記された言語が書かれていた。それは間違いなく碑文であり、過去からのメッセージであった。 謎めいた言語で綴られた碑文をローリエは難なく読み上げていく。学んだ事はなくとも、彼女の中の”ソレ”が知識を有していた。 「終末の日……赤き魔女と教唆の蛇が蘇り……蒼き雷が人々を焼き……世界は終わりを告げる……終わりを齎す者の名は……」 そこで読むのを止めると、静かに微笑みを浮かべる。
/506ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3719人が本棚に入れています
本棚に追加