十章…幸せ

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 身支度を済ませ部屋に戻ると、未だ幸せそうに眠る彼。 (そろそろ起こさなきゃ間に合わないけど気持ち良さそうに寝てる……起こすの可哀相)  プリントを手に持ち母が部屋にやってきた。 「ぐっすり寝てるみたいだね」  優しく微笑みベットで眠る彼を見る。 「うん」 「疲れてたんだろうね。時間割り一応持ってきたけど、単位が足りないのは何時間目?」  手渡されたプリントをチェック。 「えっと……数学がヤバイから3時間目」 「それならもう少し寝かしといてあげたら? 今日は遅刻していいよ。お父さんにはお母さんが言っておくから」  正反対の事を言われると思っていた私は正直驚いた。 「……うん」 「あっ……お母さん」  部屋から出ようと背を向ける母を引き止める。 「あのっ……さ。ありがとう」  一瞬驚いた様な顔をすると、 「朝ご飯出来たから、美織は先食べるなら降りてきなさい」  優しく笑いながら階段を降りて行った。  きっと私が彼を好きな気持ちを見抜いたのだろう。  心遣いが嬉しかった。  彼への思いやりは、母が私を大切に想っている証拠だから。  素直な気持ちで“ありがとう”と言えたのは、幼い頃母の日に花をプレゼントした時以来初めてかもしれない。
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