一章…無気力

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 煙草の煙りを掴もうと無意味に手をあげる。 「綺麗な赤……」  自然と呟いていた。  視界に入った左腕には幾つかの焼け跡がある。  何かの印のような“ソレ”を見ると、不思議と穏やかな気持ちになれる。  その内の1つは今も鮮やかに鮮明な赤……。 《小さな儀式》  自分の気持ちが迷子になった時には煙草を押し付けると、居るべき場所に帰る事が出来る。そんな気がした。    肌の焼ける匂いは  心地良く。  少し胸が痛くて。  私らしい。 「今回は少しやりすぎたな」  心にもない事を呟く。  意識が戻るのに時間がかかり、焼き過ぎてしまった。  端から見たらみっともない焦げ痕。  でもソレは私にとってどんなアクセサリーよりも眩しく、とても美しく見える。  深い深い赤……  深紅と言うのだろうか?  自分に流れる血液もこんなに綺麗な色なのか。  どんなに体が汚れようが血は皆同じ色だ。
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