鏡な、彼女。

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 顔を合わす度に、言い知れぬ嫌悪が沸き起こる。そう、私は彼女が大嫌いなのだ。  もし道徳という邪魔な心が無ければ、私は彼女を殺しているだろう。それは容易に断言出来た。  この嫌悪は、半端なものではない。  いつからだろうか。私は彼女が大嫌いになってしまった。それは決して偶然ではないが、私はその瞬間を曖昧にとらえていた。何故だろうか?強く記憶付けすることで、私の何かに弊害を及ぼすと(私が)判断したからなのだろうか。  何れにせよ、その時を鮮明に思い出すことは出来ない。    カチリ、  目が合った。彼女と顔を合わすと、必然的に視線が交じる。私はそれが一番嫌いだ。どうして見たくも無い死んだ目と触れなければならないのだろうか?  油断すれば(彼女の)目が裏返っていってしまうほど、澱んでいる眼。一度交わると見たくも無い悪夢に取り込まれ、濁った彼女と融合するのではないかという錯覚に陥る。否、それは錯覚ではなく現実だと肯定しよう。  (何故なら私は今現在、彼女との融合を果たし、醒めることの無い悪夢を見続けているからだ)    彼女に体温は無い。いつも冷ややかで、時たま空気に流されて熱を帯びる程度。そう、彼女はいつも流動しているのだ。それは彼女の意思などではなく、周囲の(それも空気の)変化に伴ったもの。  そう、彼女はいつも受動的だ。何もかも受け止めるだけ。  彼女は酷く平らであった。そして逆であった。私が彼女を嫌う理由に、それは少し加味されている。  私は何も逆様を嫌っているわけではない。私は(それこそ)逆が好きだ。けれど彼女はある一つだけ、全く正直なところがあった。私はつまりそこが嫌いなのだ。    死んだ目。カラカラに乾いた表情。見事な八の字眉に、なにかをかみ締めたように口角の下がった口。  顔を洗う時、歯を磨く時、お洒落をする時、髪の毛を整える時。  好きになったかもしれない。そう思って彼女と向き合う度に、私は残酷な現実に引き戻されるのだ。
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