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次に来たのは印刷室である。
「ここの印刷機は輪転印刷機といって、毎時25万部以上の新聞を印刷をすることが可能で――」
先程の汚名返上とばかりに、ニシザワさんが手振り身振りを交えながら印刷機の説明をする。
今度は誇張は無い。確かにここの印刷室は凄いのだ。機械は馬鹿みたいに大きいし、何よりそれを置く為に造られている部屋自体がやたらとでかい。大きさの比率で言えば、この部屋がメインで普段私達の仕事している部屋がオマケみたいなものだ。
そんなオバケ機械が次々と印刷物を吐き出す様を見れば、何も知らない人でも感嘆の声をもらすことは間違いない。間違いないのだが……。
「……動いてないんですねえ」
そう、いかんせん今現在この印刷機は沈黙しているのだ。それは何故かというと、何を隠そう、うちの会社は『@ HEAVEN TIMES』――『TIMES』という、英国の有名日刊紙の名を勝手に引用しているにも関わらず、その実態は二ヶ月に一度新聞を発行すればまだ良い方などという、本家とは似ても似つかぬ程の超ヘタレ企業なのである。
それには先程の『記事にするネタがない』という事情に加え、私たち職員が飲み会ばかりしていて仕事をあまりしないからという、企業としてあるまじき事情が深く、それはもう深く関係している。
しかし、食事を採らなくとも飢えることはなく、働く人口の方が圧倒的に少ないこの国ではそれもまた必然で、今まではあまり気にもとめていなかったのである。
死んでまで必死に働きたい人などはいないのだから。
流石のニシザワさんもそこは失念していたらしく、表情から『チッ、空運転でもしておくべきだったか』という悔しさの感情が滲み出ている。
「も、申し訳ございません。今日はたまたまメンテナンスの為に機械を停止させておりまして……」
即席の嘘で取り繕うニシザワさん。大天使様はというと、やはり、少しだけ落胆している様子だった。
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