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私が目を覚ましたのは硬く、冷たい床の上であった。そのツルツルとした感触から、硝子か大理石のような印象を受ける。
視線を上げると近い壁。恐らく床と同じ材質なのであろうそれには所々にヒビが走り、天井との境界には塊のような蜘蛛の巣が張っている。長い間、手入れはされていないようだ。
どこだ? ここは……。
半身を起こそうとして、違和感。視界が揺れ、ズキズキと後頭部が痛む。無意識的に触れるが傷は無い。外傷の類いではなさそうだ。
腕に力を込め、無理矢理に起き上がる。と、同時に視界の脇に現れた白い物体を見て、私は全てを了解した。
何が硝子か大理石だ。それはそんな高級な素材などでは決してなく。
視界に触れたのは薄汚れた便器。昨夜、仕事先の飲み会にて泥酔した私は、帰宅するなりトイレに倒れ込み、そのまま寝てしまったのだ。タイル張りの床の上で。
痛む頭は二日酔い。そう認識した途端に気持ちが悪くなり、込み上げた私は朝一番でしこたま吐いた。
全く以て気分の悪い、文字通り冴えない話である。
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