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自分の性分を再確認しているうちに、私は細い十字路の前に来ていた。民家の高い塀と塀に押し込められるようにして出来ているそれは、見通しがすこぶる悪い。
ここを過ぎれば五分もかからずに職場に着く。いつの間にか大分歩いたようだ。
踏み出そうとして、ふと、足下に転がる球体が目に映る。それは故きよき和の時代を想わせる、赤と白とのコントラストが印象的な手鞠(てまり)。
――ちりん。
拾い上げようとした私の耳に響いたのは鈴の音。それは冷えて張り詰めた空気に於いては尚一層鮮明で。
振り向いて私ははっとした。先程は見えなかった塀の陰に、真っ赤な着物を纏った少女が佇んでいたのだ。
雪の純白の中に浮かぶ赤。あまりにも鮮明過ぎる、まるで手鞠のようなコントラストに、私は数呼吸の間目を奪われる。少女の視線は固くこちらに向けられたまま、動かない。
「……これ、君の?」
やっとの思いで言葉を捻り出すと、少女は無表情のままこくりと頷く。私は何故かほっとして手鞠を拾い上げると、それを少女に差し出した。
駆け寄ってくる少女。その姿に私は、いつかの光に包まれた少女の姿を重ね視る。あの子は生きているのだろうか――
……いや、きっと生きているのだろう。さもなくば、今頃私は灼熱の釜で茹でられているか、針の筵(むしろ)に縛り付けられているはずなのだから。
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