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気が付けば私の手の中に鞠は無く。逃げるように走り去る赤い背中が遠ざかる。
それを眺めながら、ああ、おかっぱ頭だったのか、などとつまらない発見をした私は、手に残った鞠の感触、その余韻に只ただ浸っていた。
さようなら。気をつけてね。
心の中でそう呟くと、不意に少女は立ち止まり、振り向いて見せた笑顔の刹那。溶けるように、薄まるように、霞んだ大気にふわりと消えた。
――ちりん。
誰もいない純白世界にまた、鈴の音が響く。
死後の世界でもこういうことは在るのだな。そう、一人勝手に納得した私は、再びニシザワさんの待つ職場へと歩き始めた。
そうだ。次の『@ HEAVEN TIMES』ではこの出来事を記事にしよう。
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