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  「仮に本物だったとしてもだ。ここは天国なんだよ、て、ん、ご、く! 死後の世界! 死後の国で怪談噺(かいだんばなし)なんて記事にしたって誰も読むわけないだろうに。みんな自分が幽霊なんだから」  なるほど。確かにそれもそうなのだろうが、そんなことを言ってしまえば、そもそもこの国の人々は新聞自体をあまり読まないのである。身も蓋もない言い方をすれば、何を書いても誰も読まないことには変わりない。  そんな内容のことを言おうとしたが、私はその全てを伝えきることは出来なかった。言い終わる直前で、ニシザワさんが電話機本体を全力投球してきたのだ。  しかも、あろうことかそれは物凄い勢いで私の腹に当たり、せっかく落ち着いていたはずの何かが再び込み上げて来た私は、それが戻りきる瞬間に間に合わせるべく、トイレに向かって駆け出した。  何故あんな投げづらそうなモノをあえて投げて、尚且つ当たるのか。それもまたニシザワさんだからこそ為せる業に違いない。  そう。ニシザワさんは何事も電話で対応するプロフェッショナルなのだから。 (第一章・了)
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