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ある日の早朝。
俺の勤務時間があと10分程で終わるってゆう、ちょうどその頃。
眠い目を擦りながら、開く自動ドアに視線を向けると、見慣れた姿。
深いグレーのスーツ。
いつも深夜に来る、最近恋人と別れた(俺の勝手な予想)スウィーツ好きな、あの客がダンボール箱を抱えて入って来た。
こんな時間に現れるのは、珍しいことだが、これから出勤なのかもしれない。
「――いらっしゃいませ」
「やぁ、おはよう」
「――おはようございます」
ただの挨拶だけど、言葉を交わしたのはこれが初めてだった。
「……君、こんな朝早くにもいるんだね。ご苦労様」
「――昨日の夜からで、でも、もうそろそろ終わりなんです」
「ああ、そっか」
想像していた通りの物腰で、落ち着いた低い声が印象的だ。
「はい。え……と、宅急便ですか?」
「そうなんだ。これ――宜しく」
120サイズのダンボール箱。
そこには既に、必要事項が記された伝票が貼り付けてある。
発送先は――隣県。
宛名は”スドウ タカシ”となっている。
差出人は――”オカダ ケンジ”
――この人の名前は”オカダ ケンジ”って言うんだ。
持ち上げて重さを量ろうとしたが、大きさに似合わず、意外と軽い。
これなら、秤に乗せてる必要もないだろう。
品名の欄には何も記されていない。
――衣類か何かだろうか。
オカダさんは相変わらず、深夜になるとスウィーツを求めてやって来る。
そりゃ、顔を見ない日もたまにあるけど。
でも、やっぱり買っていくのは1つだけ。
――いつか聞いてみようか。
もう、1つ……どうして買って帰らなくなったんですか?って。
【コンビニ観察日記 ―END―】
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