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いつもは傍若無人で勝気な麗葉だが、以前高経が言っていた「好みの女」ことを気にしていたらしい。
また、誤解の無いよう付け加えると、「オレ以外にも……」と言う件(くだり)に関しては、時期頭首たる高経に嫁候補が何人も手を挙げているということである。
高経は確かに軟派なところもあるが、誓ってそれらの候補者たちに手を出したことは無いことをここに明言しておく。
「高経~!そろそろお前の出番」
御簾をめくり上げ、高経の友人・飛彦が声をかける。
高経ほど派手ではないにしろ、こちらも正装をしていた。
「ああ、うん」
高経は頷き答えると、冠を手直しし、背筋を伸ばした。
長老の話が終わったのか、広場から天狗達の歓声や口笛、拍手が波となって押し寄せてくる。
「……俺は、さ」
高経は御簾の向こう側を見据えるように前を向いたまま、呼吸を整えた。
飛彦の出現ですっかり水を差され、ただひたすらに茫然としていた麗葉は高経の背を見やった。
高経は御簾に手をかけると、麗葉を振り返り、微笑んだ。
「麗葉が良いよ」
「…………っ!」
麗葉は思わず涙が出そうになり、唇を噛んだ。
鼓動が煩い、顔が熱い。
突然麗葉の目の前が光で満ち溢れたようで、麗葉は泣き叫びたい衝動に駆られた。
感極まるとはこういうことを言うのだろうか。
しかし、それも次の高経の力強い一言であえなく台無しになる。
「例え、胸が無くても」
咄嗟に何を言われたか分からなかった麗葉は、しかし次の瞬間怒りを爆発させた。
「高経、貴様ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
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